東京地方裁判所 平成6年(ワ)11054号 判決 1995年1月27日
原告
黒田久子
被告
鬼頭大輔
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告に対し、四五一万四三〇八円及びこれに対する平成四年八月二六日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、各自、原告に対し、六〇〇万一三五三円及びこれに対する平成四年八月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 交通事故の発生
被告鬼頭大輔(以下「被告大輔」という)は、被告鬼頭美津子(以下「被告美津子」という)所有の普通乗用車(以下「被告車」という)に原告を同乗させてこれを運転していたところ、平成四年八月二六日午前三時ころ、埼玉県八潮市大字八条九先の路上において、運転を誤り横滑りをおこすなどして被告車を制御できなくなり、反対車線に止めてあつたスクラツプ車両に被告車を衝突させ、原告に対して下顎骨骨体骨折の傷害を負わせた。
2 責任原因
本件事故は被告大輔の過失によつて惹起されたものであるから、同被告は民法七〇九条に基づき、また、被告美津子は、被告車の所有者であつて被告車を運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき、いずれも、本件事故に起因する損害を賠償する責任がある。
二 本件の争点
被告は、損害額を争うほか、原告主張の後記後遺障害は自賠法施行令に定める後遺障害等級に該当しないものであつて、被告には慰謝料支払義務は存しない旨主張する。
第三争点に対する判断
一 損害額について
1 休業損害
証拠(甲二、四、七)によれば、原告は、昭和四七年一〇月一三日生まれの本件事故当時一九歳の女子で、株式会社キオイエンタープライズに勤務し宴会課の予約係に所属する会社員であつたこと、原告は、本件事故に遭遇したことから治療等のため休業を余儀なくされていたところ、治療が長期にわたるなどの理由から退職せざるを得なくなつて平成四年一二月一五日同社を退職したこと、本件事故発生日から右退職の日までの期間中原告に対しては一切給与が支給されなかつたこと、原告は、再就職を希望していながら、口が十分に開かないことと再手術が必要であつたことなどのため、思うに任せず、無職の状態で症状固定の日をむかえたことか認められ、また、原告の本件事故前における前記会社における給与額は、本給は一三万五〇〇〇円であり、さらに付加給が加算されるが、付加給は稼働日数等により変動があり、少ない月でも一万四二六七円あつたことが認められるから、休業損害算定の基礎となる原告の収入は月額一四万九二六七円とするのが相当というべく、これを基礎に、原告の休業損害額を算定すると、一三四万三二八四円ということになる。
2 入通院による慰謝料
本件事故の態様、傷害の部位・程度、入通院期間等本件に現れた一切の事情を斟酌すると、入通院による慰謝料は一三〇万円が相当である。
3 通院交通費
証拠(甲五の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、通院交通費は六万七五二〇円であることが認められる。
4 雑費
入院雑費としては、一日当たり一三〇〇円として、入院期間が二五日であるから、三万二五〇〇円が相当である。その余の請求は、通院雑費と主張するものと思われるが、証拠(甲六)によれば、食料等購入のため支出があることは認められるものの、支出の必要性、相当性を認めるに足りる証拠はないから、認められない。
5 通院付添費
原告の年齢に鑑みれば、原告の症状を考慮しても、通院付添の必要は認められない。
6 後遺障害症による慰謝料
本件事故によつて原告の左の下顎部に長さ四センチメートル、幅〇・五センチメートルの瘢痕が残り醜状となつていること、右瘢痕は、自賠責保険の関係においては、その部位が頸部であるところ、鶏卵大の瘢痕という認定基準に達していないとして、後遺障害別等級表所定の第一二級一四号(女子の外貌醜状)に該当しないとされたことは当事者間に争いがない。
ところで、交通事故により顔面等に残つた瘢痕等は、それが自賠責保険の関係で後遺障害の認定基準に達するものではないとされたとしても、そのことのみをもつて慰謝料請求の対象となる後遺障害は残存していないとすることはできない。慰謝料請求の対象となる後遺障害といえるか否かは、瘢痕の部位、大きさ、色彩や、被害者の性別、年齢、職業等の諸般の事情を総合して決すべきである。
証拠(甲三の1、2、七)によれば、原告の瘢痕は、頸部にあるとはいうものの顔面部に近く、その長さからしても決して小さいとはいえないものであつて、みみず腫の状態となつており、特に横からみた場合は人目につきやすいものであつて、衣服や髪によつて隠すことが困難であること、原告は症状固定時は二〇歳の未婚の女性であつたことが認められ、これらの事情や、自賠責保険の関係においては、顔面部であれば長さが三センチメートル以上の線状痕は外貌醜状に該当するとされていることなどを考慮すると、原告の醜状障害は、慰謝料によつて慰謝するのが相当な程度に至つているといわざるを得ず、その金額としては二〇〇万円が相当である。
なお、原告には、右外貌醜状のほかには、慰謝料によつて慰謝するのが相当な程度に至つている後遺障害は認められない。
7 損害の填補
以上1ないし4及び6の合計額は四七四万三三〇四円となるところ、被告から原告に対して、休業補償名下に五七万七一三六円が支払われたことは当事者間に争いがなく、通院交通費名下に五万一八六〇円が支払われた事実は原告が明らかに争わないことからこれを自白したものとみなされ、これらは損害の填補として賠償額から控除するのが相当であるから、原告が賠償を求め得る金額は四一一万四三〇八円となる。
8 弁護士費用について
本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用相当額は、四〇万円と認めるのが相当である。
二 結論
以上の次第で、原告の請求は、四五一万四三〇八円及びこれに対する不法行為の日である平成四年八月二六日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 齋藤大巳)